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図録本 鑑賞と新知識 石印材の楽しみ 季刊墨スペシャル
芸術新聞社 1995年 192ページ 約28.5x21x1.3cm
※絶版
全てが古印材・印材の特集記事で構成された特別編。 めったにお目にかかることのない、書家個人蔵・愛蔵の印材をカラー写真で公開。 石印材の基礎知識の項では、石印材に関する基礎的な概説と実用知識をおりまぜながら、それぞれの石種の新材の美石、旧材・古材を豊富な図版で紹介。資料の乏しさゆえに、ばく然としていた石印材の分類・名称・特徴などを、本場中国の興味ある出版物の翻訳を随所にとりこみながら明らかにし、さらに現地ルポによる石印材産地の最新情報から印材の楽しみ方まで、豊富な新知識を満載。 大型雑誌・図録本としてもすぐれた、情報満載・愛好家必携の大変貴重な資料本。
【表紙より】 三大印石 中国の明代から清代にかけて、 篆刻芸術の隆盛とともに、多くの文人たちは、 巧みな印鈕や浮彫をほどこした名材美石を愛玩してきた。 それら石印材の三大産地は、 福建省の寿山と浙江省の青田・昌化であるが、 歴代にわたる鑑別や品等により 「田黄石」「芙蓉石」「鷄血石」が ”三大印石”として、その名を海内に鳴りひびかせた。 幾世代にもわたり、収蔵家の手から手へと伝えられてきた古印材は、その美とともに文人たちの心声を今に伝えている。
巴林石の故地 一般的に「パーリン石」と呼ばれるこの印材が、印石愛好家のあいだで、その名が知られるようになったのは今から 十数年前のことである。 しかし、その産地・種類・判別などについては、長いあいだベールにつつまれていた。中国の東北、内蒙古自治区巴林右旗にある巴林石礦山の採掘現場まで、中国人ジャーナリストが単身乗りこみ、巴林石の歴史から現地の最新事情まで、詳細にレポートする。
【目次より】
【巻頭付録】端渓硯水巌硯譜 1雲月硯 【巻頭言】 石印材の魅力と鑑賞 新関欽哉 【書室訪問】 石印材の楽しみ〈私のコレクション〉 ・村上三鳥・梅舒適・稲村雲洞 【鑑賞編】 古印材の美・遠藤純(撮影) 田石/芙蓉石/寿山石/青田石/鶏血石/楚石/広東緑 【コラム】 私の好きな印材 ・明石春浦・表立雲・菅野清峯・菅原石廬・田中凍雲 【石印材の基礎知識】 石印材の種類と産地・橋本吉文 新印材の知識 石印材こんな話・あんな話〈田黄〉・蓑毛政雌 訳 寿山石各種と新印材 石印材こんな話・あんな話〈寿山石〉 青田石の分類 青田石・鶏血石各種と新印材 昌化石の分類 【寿山郷レポート】 寿山石印材事情 ・高白熊 【現地ルポ】 内蒙古・巴林石の故地を訪ねて・殷占堂 【特別寄稿】 〈青田〉〈寿山〉〈昌化〉印石略説・韓天衡 韓天衡コレクション 西冷印社副社長 【インタビュー】 印石と係わって五十年 ・富士信 【ガイド】 中国・上海印材購入最新事情・王志倫 【人物クローズアップ】 印材一筋に賭けた男・日比雅弥・日比正子 【チャレンジコーナー】 印材の楽しみ方一彫鈕を作ろう ・高澤翠雲 【コラム】 印材の彫鈕について・田上恵一 訳 彫鈕芸術の名人たち・村上幸造 訳 【資料編】 寿山石概況・弁垣清明 訳 寿山石分類表 寿山石全解説〈高山系・旗山系・月洋系〉 【実践ガイド】 印材の選び方と刻り味一現代の篆刻家23名に聞く 【インフォメーション】 印材を扱う全国筆墨店ガイド
【内容一部紹介】 石印材の魅力と鑑賞 新関欽哉(印章研究家) 写真図版 田黄・薄意「洞庭秋色」6.9×5.0×3.9cm 世界広しといえども印材に適する石を産するのは中国大陸だけである。その中国でさえも 地はほとんど福建省と浙江省の一部に限られている。 明末から清初にかけて相ついで発見された石坑はその後掘りつくされてしまった。寿山や青田ではいまでもいくらか採石が行なわれており、また近年になって内蒙古自治区の巴林で石坑がみつかったが、新しい石は概して品質の粗悪なものが多い。したがって、石印材の名品はいまでは希少価値を有する貴重な文化財であるといっても過言ではないのである。その点、採掘技術の進歩によって大量に採れるようになった端渓の硯石とは事情を異にしている。 ところで、石印材は、同じく石を素材とする硯と比べて雅趣において遜色がないばかりでなく、色調の変化に富んでいることにかけてはむしろ勝っているといえよう。また、書画や陶磁器とは違って、天然の材料をそのまま加工したものなので、贋作や偽物は本来ありえない。最近、田黄や鶏血が法外の高値を呼んでいることに目をつけて模造品が出廻っているが、これは一目みただけで直ちに真贋の見分けがつくようなシロモノである。だが、高山凍や杜陵坑の古材のなかには、田黄とみまちがうような美麗な石があり、また近ごろ巴林から鶏血とまぎらわしい石も出るようになった。したがって、必要なのは良材を凡石から識別するすぐれた眼力である。そして石印材の良否を判断するためには、まずなによりも正しい知識を身につけ鑑識眼を養わなければならない。それには、できるだけ多くの実物を見て比較検討することが肝要である。それもただ遠くから眺めるだけではなく、実際に印材を手にとってその量感を確かめるとともに石肌のよさを直接感じとるべきであろう。すなわち、石印材を鑑賞するにあたっては、視覚もさることながら、触覚がきわめて重要な役割を演じるといってよいのである。
私の好きな印材 村上三島 図版 鶏血石 変色しやすい鶏血石 印材で私の好きなのは鶏血(昌化石)です。書家として永く生活していると、一番近しい文房四宝と一緒に暮らしている為に何か、つまり墨とか紙とか、硯や筆のいづれかに愛着を持つようになるのは自然のことのように思われます。文房四宝に限らず、書斎には書作と切り離せない好きなものが机辺に出来てしまうのも一般のことです。そんな中に印材があります。印材と言っても多種多様、白も黒も、青や赤また黄色、随分美しいものが沢山あります。こんな色が好きだとか、美しいものならばどんな石でもよいとか、各自が好みによって様々です。何かの縁でこれは珍らしいと言えるような印材とめぐり会うと。その印材が中心となって、そのあとは自分の落款印もそれに類した石を集め、使うという人も多いことです。私の場合、それが鶏血石だったのです。私の社中では白を中心とする人や、美事な田黄が手に入ったから黄色な石ばかりをと言った風に色を決めて楽しんでいる人もいます。私の好きな鶏血石は少し小さいのですが、その赤の美しさに牽かれて、今では殆んど自分の落款印が赤になっています。 鶏血石の良いものは全部と言ってよい程昌化石です。この広い地球上にこの昌化県の山より出る鷄血の外にないということは不思議でもあります。世界のどこにも印材としての条件を満たす石がないのはどういうことでしようか。あればきっと輸入されていると思うのですが。ここに掲げられている石よりもっと鮮やかな赤で大きいのを見たことがありますが、最近はさっぱりお目にかかることがありません。鶏血も地色が白であったり、黒っぽかったり、灰色のと種々ありますが、赤が好まれるわけですから、赤が鮮やかな美しさで、その赤の部分が多い程よい品ということになるのでしょう。ただこの赤は紫外線に弱いので、出して置くと赤が黒く変色するのが難で、箱の中に眠らせておかねばならぬのが残念です。
プロフィール むらかみ・さんとう 1912年(大正1)年愛媛県に生まれる。片山万年・辻本史邑に師事。現在、芸術院会員、日展顧問、読売書法会常任総務、日本書芸院常任顧問。長興会会長。1993年文化功労賞を受ける。
梅舒適 掌中に入る文玩品 蝋石が発見されて篆刻が盛んになった。我々が文玩品として欣賞と実用に値するもののうちに、硯に用いる石と、印材として利用される石がある。印材用の蝋石は何といっても雅印としての刻に適し、また石でありながら柔らかで膩の感じがし多色の美麗さが魅力である。しかし同じ石材でも、かろうじて刻の用に足りるものと蝋分の多い密な凍質の良材との差のあるものが甚だ多い。石印材の王格は何といっても田黄凍石であろう。その鮮やかな黄色の微透明からなる石膚の魅力は他の石を寄せつけない。文玩を愛した清朝の名帝はことのほか、この黄色の石を愛した。田黄には黄金、橘皮、枇杷、金包銀、銀包金、熟栗等、黄色でも微妙な差があり、これらの名に区別されている。しかし田黄はすべて凍石でなければいけない。不透明な黄色材は黄高山である。 さて印石を愛し利用した殆どの人は寿山と青田の名は識っている。中でも福建の寿山郷の山には古来から名石といわれる材が多く産出された。今はそれらの殆どの山の坑が閉塞されている。ただ一つ高山坑のみが採掘されている。また寿山郷の一部に田石の出る田坑があり、ここからごくわずかな田石が今でも出ているが、かろうじて黄色の材という程度のもので、旧石のような潤いのあるものはまづない。青田県産出の青田石も寿山同様である。その他広束、湖南などからも採掘されているようである。特に最近、内蒙古の巴林地区から旧寿山石のような美しい各色の材が出ている。しかし、潤いと味の乏しいのは当然である。 石印材の名称はそれらを研究する人によって種々呼名が違う。特に最近、我国でも中国や香港でも石印材の専書が出ているが、産地で呼ぶもの、坑名で呼ぶもの、或いは色調や似た物の名で呼ぶもの等様々である。いわゆる固定した名称というものが無いといっても差支えない。例えば寿山郷旧芙蓉坑から産出した白色の良材は、時に白寿山と呼び、また白芙蓉、白蝋とも称している。石を判別するに、よく名称の違いの論駁があり、互いに主張するのがこれらのよい証拠であろう。 石印材は何といっても文玩中最も小さく、常に掌中に入れて愛玩できるところに大きな魅力がある。良質の材なれば手磨することによって光澤加倍、玉の如くに見違える美しさになる。またこれらの旧石印材の立派なものはかなり高価であり、世に軟宝石と称される所以である。ただあまり立派な材であると、篆刻をするのに気後れがし、石のままで置いて鑑賞した方がよいかもしれない。佳材を見つければ心が躍り、過去の名人達の篆刻家のように直ちに刻したくなるようにならなければ、嘘かもしれない。
プロフィール ばい・じょてき 1916 (大正5)年大阪に生れる。現在、日展評議員、日本書芸院常任顧問、日本篆刻凍協会理事長。読売書法会常任総務、西冷印杜名誉理事などの要職にある。
図版 白寿山 4.9×2.9×2.9cm いわゆる白蝋と称する旧芙蓉坑の建材で、富岡鉄斎旧蔵の ものである。上半分に損しない素晴らしい鈕が施されてい る。印面には「何知千載外正頼古人書」と刻されている。
稲村雲洞 文人たちの興趣を誘った彫鈕の気韻生動 文人は文房において四宝(筆墨硯紙)とともに様々の用具用材を生かし生かされながら、想をめぐらし感性を磨き制作に専念する。 それらの中には硯のように耐久保存性のあるものや、墨のように消耗されることによって生きるものなどあるが、石印材も耐久性があり独得の用美を備えている。 石印材の魅力は何といっても自然生成により、はかりしれない造化の妙であり、石質の神秘性であって、採出された中から潤い、なめらかさ、透明度、純浄、色調など、雅趣があれば小品であっても貴重であり、大きさはそれ程の問題ではなくその粋美にかかっている。 特に彫鈕は名もなき名工達の審美眼と愛石の情をこめて高度な技術と造形感覚、繊細緻密や大胆な簡潔化への発想など、石印材ならではの気韻生動があり、工人達の自らに問い文人供与への真摯な生き様に惹かれる。 古印材の鈕には古印鈕の形模、想像動物、鳥獣魚虫、花木、人像(仙士、童子)等から側面の浮彫、すかし彫りなど幅広く脱俗への夢をかりたてて名品、逸品ならずとも、一印材ごとに形、色、刻などに品と格をもっている。 また、工人達は原石からの抽出、形づくり、彫鈕構想、小材ながら荒彫りから仕上げへの集中とその持続、肌を磨き、更に手沢など時空を超えた労作の経緯、それらを以心伝心、愛玩して伝承した人達、まさに石は語らず、今、身近に得た出合いはそれぞれに不思議であり、楽しさとともに刺戟され益することが多い。 好きな石といわれれば王者といわれる田黄、鶏血ならずとも寿山、青田、昌化、広東緑などの半透明、微透明の良材が好きである。 その中にはえもいえぬ無限の宇宙観、荘厳、幽邃、飛動など、まさに夢幻抽象の原点がありオブジェといってよい。ともあれ美石印材は文人の感興誘発のエキスであることはいうまでもない。
プロフィール いなむら・うんどう 一九ニ四(大正13)年福井県に生れ る。福井師範卒。宇野雪村に師事。 現在、毎日書道会理事・ 毎日展審査会員、全日本書道連盟常務理事、国学院大学講師をつとめる。 一九九ニ年中国・北京で「日本稲 村雲洞現代書法新作展」、翌年八月 東京で帰国展を開催。一九九四年第35回毎日芸術賞受賞。
図版 鱚草凍(虎鈕) 白高山(馬鈕)牛角凍(獅子鈕)広寧凍(獅子鈕)桃花紅(獅子鈕)美人紅(鯉鈕) 坑頭石(獅子鈕)茘 枝萃(羊鈕)水晶凍(羊鈕) 芙蓉(龍鈕)水晶凍(魚鈕)水晶環凍(龍鈕)芙蓉(獅子鈕)牛角凍(葡萄鈕)美人紅(鯉鈕) 魚脳凍(龍鈕)広東緑(獅子鈕)小高山(獅子鈕)青田石(蛙鈕)白高山(虎鈕)田黄(蝉鈕)杜陵坑(龍鈕)杜陵坑(魚鈕)白芙蓉(獅子鈕)
田黄に魅せらわて 明石春浦(書家・日展会員) 私が石印材に興味をもち、収集しはじめてから三十年近くにもなる。もちろん、それ以前から焼き物や古文具・古玩・拓本への興味もあり古美術商などにもよく顔を出した。 実際に古印材を入手し始めたのは、日中国交が正常化する以前に中国を旅する機会に恵まれたことからである。当時の中国は、文革の嵐が吹く時代で、国家によって古き時代より大切にされて来た文房四宝が集められ、大量に売られていた時代である。 その後も中国・日本を問わず石印材にどうしても目がいくようになり、やがて石印材の「王中の王」と言われる『田黄』に心引かれ次第に良材の大きなものを集めるようになった。それは田黄が田んぼの中から出てくるという神秘な面と、他の石にはない色と深い輝きを具えているからである。 田黄にはいろいろな色があるが、橘皮黄、黄金黄、枇杷黄、鶏油黄と言われる石で風格を具えたものを第一とし、特に何かを語りかけてくるような田黄が好きである。石に施された印鈕や、一幅の山水画のような雰囲気を醸し出す薄意彫刻を見る度に、その刻者の石への深い思いを感じる。 そのような田黄への思いがあって、平成七年の一月に同朋舎出版から『田黄』と題する本を出版する予定で、現在最後の追い込み中である。 写真図版 田黄
鈕・刻・材に来歴を語る小印二顆 表立雲(書家・玄牛社主催) 一九六六年(昭41)四月、琉璃廠の萃文閣へ前日に続いて一人で訪れた。神戸訛りの店主が私の顔を見ると、にっこりと笑って店との仕切り戸を押し奥に招じて棚から数顆の印を取り出して見せる。札に田黄、呉昌碩と記してある一顆を夢中で買い求め、団長の香川峰雲さんに見せたら一笑に付されてがっかりした。 松丸東魚さんに印影を送ったら驚きの手紙と『続缶廬榑桑印集』に鈴印したいので借りたいと連絡が来た。後に、押印の仕事をした関正人君に鈕の中に尚均の款があると教えられ、周彬(尚均)の彫鈕であることを知った。 力強い黄筋をともなった最優材の田黄・周尚均の鈕・呉昌碩の印刻と三拍子揃った小印が、私の印に目覚めた最初の宝物である。 「鴛鴦」この奇妙な構成の印は文化大革命の最中、日本に来た。「寉千製鈕」の款がある。また「鈿閣」の側款もある。張日中(鶴千)と韓約素(鈿閣)、いずれも清初の人である。 乾隆期を溯る清初の製鈕、印材、印刻の特定出来るものははなはだ珍しい。「鴛鴦」の刻印はその後、二顆入手している。『中国美術家人名辞典』には次の記載がある。張日中、字鶴千、毘陵(江蘇常州)の人。蒋烈について鳥獣亀魚の鈕を学んだ。当時、楊玉迄・文震享と共に呉の三名手と称えられた。韓約素、字錮閣、梁千秋について篆刻を学んだ。佳材凍石を好み巨章は刻さなかった。周亮工をはじめ名流大官は彼女の刻印をすこぶる愛玩珍重したという。
図版 (左)白芙蓉(古獣鈕、寉千製鈕の側款) 3.0×2.5×1.6cm (右)田黄(平頂印章、周尚均の款) 2.0×2.1×2.1cm 鴛鴦 「尚均」款の拡大写真 某(梅)邨(村)清翫
古印材の美 軟宝石と言われる石印材は、その温潤細膩の質と変化に富んだ高雅な色彩で、多くの人を魅了してやまない。 田黄の豊潤、芙蓉の気品、鶏血の鮮烈など、凝縮された石の精に宿る美は、長い時を経て、ますますその落ちつきある光沢を増す。
桃花紅 高山に産す。透明なものは「桃花凍」、微透明は「桃花紅」と称す。「美人紅」「瓜凱紅」と似るため判別しにくい。温雅で優しい雰囲気をもつ一対の材を精刻の鯉鈕が一層引き立てている。(王志倫)
都霊坑 別名は「都成」或は「杜陵」ともいう。礦床に脈状、塊状の二種があり、清の道光年間に採掘が始まる、石質は硬く透き 通っていて冠山坑中の最良材とされる。佳材は田黄石と並ぶ。表裏同じで変色せず、囲岩が堅硬でその礦層が希薄であるため採掘は困難を極める。囲岩にしっかり貼りついた部分は特別に美しく、俗称は「黏岩都霊」。光潔さは桁別である。また「琉璃地」の名がある。(王志倫)
黄芙蓉 黄芙蓉石は寿山の東南、月洋郷加良山に産す。石色は黄色く、雲のように塊状が浮いていて美しい。一般には白色が多く見られる。この印材は明るい黄色で、石質は極めて純浄である。彫刻者はその筋絡を利用し、古獣を刻す。温潤古雅な趣きがある。(王志倫)
白芙蓉 月洋郷の加良山が産地。石質は潤いがあり細かく微透明、内部に白い塊を隠し「芙蓉屎」と称す。明清間に初めて産出される。当時は佳材として重視されなかったが、乾隆以後しだいに美名を著し、光緒年間には「印石三宝」の一つとたたえられた。この一対の巨材「白芙蓉」は、加えて非常に古樸な鴨鈕が彫刻されており、芙蓉の王の風格をもつ。(王志倫)
牛蛋黄 別名「鵝卵黄」。旗山南麓の渓流一帯が産地。色は黄、質は堅く、形は鵞鳥の卵に似る。黄色や黒色の石皮を持つものもある。佳材は粗質の「田黄」と似るが、蘿蔔紋がなく細かい白点が隠れている。俗称は「牛蛋田」、近年、村の田地より偶然発見された。しかし古牛蛋黄は非常に少ない。(王志倫)
蘭花青田 浙江省青田県が産地。石質が純粋で色は青、微透明の中に藍・紫色の小点「藍花点」を含むものが最も上品。石中に非常に硬い乳白色の塊をもつものは良くない。このニ顆の印材は、ラピスラズリ(青金玉)の色とよく似ており、凛とした美しさを漂わせている。(王志倫)
鶏血石 産地は浙江省昌化県。品種は多様。ただし透明度の高いい「老坑鶏血石」は極めて少ない。この古材の質は純粋、内に血の塊状の鮮紅を合む。一般に、このような素晴らしい鶏血石に鈕彫をほどこすことは蛇足といわ れてきた。しかし、清代名人・周尚均は精美極まる細彫をほどこす。それは大へん独創的な試みであった。(王志倫)
鶏血石 浙江省昌化県で産出される。血の部分は金属質、つまり砂釘を含むため印刀が立ちにくい。このような劣材はよく見られるが、上質で微透明の建材は少ない。この一対の古印材は「劉関張鶏血紅」とよばれ、『三国志』蜀の劉備・関羽・張飛の顔のように紅・白・黒三色そろった鶏血石が最高とされている。(王志倫)
広東緑 広東省高浮県が産地。色は翠緑(翡翠の緑)、質が細かく、透明感あるものが絶品である。現在新しく採掘された印材の品種は多様であるが、一見して不透明で粗く、印刀を受けつけないほど硬いものが多い。この石は「古広東緑」である。また多くの著名篆刻家は、幻の石といわれる「艾葉緑」の鑑定が難しいため、この石を広東緑に分類している。(王志倫) 呉樸堂側款 宏徳先生夙其印癖喜蓄佳石収蔵甚富 頃以此石見示蒼碧如翠温潤可愛雖不 知産於何地者然信為佳石也属為製印 欣然奏刀癸未冬厚□記 呉樸堂側款 宏徳先生は印材狂で有名、佳石を蓄え、収蔵は甚だ豊か。今この石を差し出し示す。蒼碧は翡翠の如く温潤可愛。産地が何処かは存じませぬが、佳石と信じる。非常に嬉しく、記念に印刀を押し進める。 癸未(昭和十八年)冬厚□(呉樸堂)記
●石印材の基礎知識 ここでは、石印材に関する基礎的な概説と実用知識をおりまぜながら、それぞれの石種の新材の美石、旧材・古材を豊富な図版で紹介していきます。今までは資料の乏しさゆえに、ばく然としていた石印材の分類・名称・特徴などを、本場中国の興味ある出版物の翻訳を随所にとりこみながら明らかにしていきます。 また現地ルポによる石印材産地の最新情報から印材の楽しみ方まで、豊富な新知識を満載しました。
●資料編 寿山石全解説 本欄の石種解説は、陳石編著『寿山石図鑑』および方宗珪著『寿山石全書』から抄訳したものです。(訳=井垣清明、本誌編集部)
高山系/田石 田石は寿山村の中の寿山渓に産する。渓の両側の水田や砂土の中に田石が埋まっている。田石は、もとから田地の中にあったのではなく、近くの高山・坑頭・杜陵などからころがり落ちた石塊が、砂土や水田へ入ったものである。それゆえ石は一個一個の独立した塊であり、長年にわたり地下に埋蔵され、田水・泥砂・地熱などの影響を受けているので、石質はやや透明で温潤凝膩である。田石の石肌には通常、細密精緻な大根の表皮にあるような線状紋が含まれる。外表には黒や白あるいは賞色の一層の石皮がまといつき、赤い格子膜様があることが多い。これらは出石の重要な特徴となっている。俗に「格がなければ田石にならず」と言われるのはここから来ている。
白田石(はくでんせき) 石質は細膩で凝結し、やや透明。色は白が多い中に黄味がさしている。石肌は大根の表皮のような細密な線状紋があり、血の糸のような紅筋がある。白田石の価値は高く、優秀な田黄石にも引けを取らない。寿山郷附近の芹石郷の川の巾に、賞色い筋目入りの黌箕川石を産する。極めて混同しやすいので慎重に見分けるべきである。
紅田石(こうでんせき) 色が橘皮のように紅く。赭のような黄色を帯びているものを俗称「橘皮紅出石」という。紅田に二種ある。その一は天然に生成されたものである。石質は細緻凝膩で、やや透明である。石肌には細密な大根様線状紋がある。稀有な石腫とされる。その二は山の田が火に辿ったとか農夫が田で肥料用に草を焼いたとかした際に、その中にあった田石が高温によって表層が徐々に紅くなったものである。この石は熱を受けた後で乾燥しており裂けやすく、珍品は少ない。
田黄石(でんおうせき) 田黄は寿山渓の上坂・中坂・下坂に産出するが、中坂のものが最佳品である。田黄の石質は温潤でやや透明もしくは半透明である。石肌には人根の表皮にあるような極めて細密な線状紋があり、表而はしばしば淡黄色・白色あるいは黒色の表皮で覆われている。中には赤い筋目や桁子縞模様がある。 田黄石の黄色には深浅濃淡がある。各々の黄色によって黄金黄田石・橘皮黄出色・桂花黄田石・枇杷黄田石・熟栗田黄石・桐油地田黄石などと名づけられて品種分けされる。極めて純粋澄明な石は田黄凍と呼ばれる。
田黄凍(でんおうとう) 主に寿山渓の中坂に産する。石質は温潤純浄であり、全体が一色をしていて半透明である。石肌に大根様線状紋があり、桁密かつ清晰である。色彩によって橘皮紅・黄金黄・桂花黄などの品種に分けられる。田黄凍は田黄石の「王中の王」に価し、極めて稀少である。
銀裹金田黄石(ぎんかきんでんおうせき) 以下略
韓天衡コレクションより カラー写真図版 田黄凍 青田蘭花釘 田黄石 青田五彩凍 青田封門凍 田黄石 青田醤油青 寿山紅花凍芙蓉 昌化鶏血石「劉関張」 艾葉緑 寿山白芙蓉 金銀田 昌化鶏血石「大紅袍」 艾葉緑
ほか
★状態★ 1995年のとても古い本です。 外観は通常保管によるスレ、天小口に経年並ヤケ、開きじわなどがある程度、 カラー写真図版良好、目立った書込み・線引無し、 問題なくお読みいただけると思います。(機種依存文字等、文字化け、書き込み等の見落としはご容赦ください)
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